-一級の中世文化論-
ポイント
・あえて秘密にすることの大切さ
・慢心せずやることをやる
世阿弥。1363-1443年。室町時代初期の申楽師。
「風姿花伝」は能の大成者、世阿弥が約20年の歳月をかけて書いた芸術論です。体系立った理論、含蓄のある言葉で構成され、芸術家自身による芸術論は稀です。「花」と「幽玄」をキーワードに、能の修行法から心得、演技論、演出論、歴史そして美学に踏み込んでいきます。能に限らず、何かを極めようとする人にとって有用な #哲学書 だと思います。
まずは道ありき、道を極めた結果、福や名声が訪れるといいます。もし、富や名声を得ることを最初に目指してしまうと道は廃れてしまう。また、若いというだけで名声を得る時がある。しかしそれは本物の力によるものではなく若さゆえなのだから、日々慢心せずに道を極めよと説きます。上手は下手から、下手は上手から学ぶことの重要性にも触れています。
顧客視点からも能を考察しています。昨日面白いと思ったものが今日は面白くない、そしてまた後日見ると面白いと感じる。このように能に対する反応は日々さまざまなのだから気を落とすことなく、とにかくいい能をする、と信じることが大切だと説きます。このことは何事にも言えるのではないでしょうか。
終盤に一子相伝の口伝があり、もし後継者に能力がなければ伝えなくても良いとする説があります。世阿弥の能に対する真剣さ厳しさがうかがえ、この世から消えることなく風姿花伝を手にとれる今に感謝しました。
著者: 世阿弥 翻訳: 水野聡 文庫: 111p 出版: PHP
1回目読了 2011/07/14
2回目読了 2021/06/14
メモ
「鬼の研究」著者馬場あき子さんが、以下のYoutubeで風姿花伝・世阿弥ついて言及しています。
馬場あき子 講演「修羅能と歌」 ~世阿弥が語る「修羅能」とは(2018年/特別講座「修羅能の世界を語り合う」より)
① https://youtu.be/RWM1x-3ktmE
② https://youtu.be/-_y1V6zjJJ4
修羅能(しゅらのう)とは、能の演目の中で武人がシテ(主人公)になる曲を言う。修羅物とも言う。世阿弥によって定着した能で、風姿花伝で言及しています。しかしその文章は矛盾した表現があり、動画内で馬場さんが解説。
世阿弥が生きた時代は、下克上、天皇と幕府、地方の欲がドロドロとした時代。欲にまみれた武士と、世阿弥が持つ武士への理想像との隔たりを修羅能によって表現したと。
侍も持って欲しい文化の香り。戦争によって滅ぼされた文化。
馬場あき子が解説 能「善知鳥」と歌枕 ~企画公演「馬場あき子と行く 歌枕の旅」~
Part.1 https://youtu.be/4uCimSeY0XA
Part.2 https://youtu.be/XiAHMNwMJ_M
善知鳥(うとう)という能を題材に、歌枕の作用について論じています。(枕とは、身近にある言葉や二つ以上の意味を持つ被せる言葉)世阿弥は能を書くためには歌だけは勉強していいと言っているそうで、歌枕を学べば能に対する品格や深みが出るとのこと。言葉を巧みに使える人が過去も現代も成功していると改めて思った。
あらすじ
ウトウという鳥を殺して生計を立てていた猟師が死後亡霊となり、生前の殺生を悔い、そうしなくては生きていけなかったわが身の悲しさを嘆く話。人生の悲哀と地獄の苦しみを描き出す哀しく激しい作品。
ご拝読ありがとうございました。それでは、さようなら。気をつけて:)
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